ポジション別のトレーニング

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トレーニング

これまでさまざまな角度からフィジカル・コンディション、特にフィジカルトレーニングの方法について述べてきたが、今回はより高度な実践例として、ポジション別のトレーニングについて、ブラジル代表及びジュビロ磐田のフィジカルコーチ、ルイス・カルロス・プリマ氏(下註1)に聞いた。

94年アメリカW杯のブラジルの勝利は、そのフィジカルコンディションの勝利でもあった。ファイナルでイタリアの選手の多くが足をつったり、疲労し尽くした表情を浮かべたりしていたのに対し、ブラジルの選手は良好なコンディションを保っているように見えたのが印象的だった。プリマ氏は、
「精神力とフィジカルコンディションは相互に作用しあう。以前はフィジカルトレーニングといえば物理的なコンディションを高めるトレーニングが主体だったが、現在はよりトータルな、精神力と物理的なトレーニングの両方を高めることが重要視されている」
 と、語る。以下、プロレベルで行われているポジション別のトレーニングについて、その基本的な考え方を聞いてみた。

持久力とダッシュ

 マラソン選手は長い距離を長い時間走るため、効率よく酸素を身体に送り、しかもそれを持続させるために、心臓が大きくなり、毛細血管が発達する。100メートルのスプリンターは、瞬間的に多くの血液を身体の細部にまで大量に押し出すために、心臓の筋肉が厚く発達する。サッカー選手の場合は、瞬発力も持久力も必要なので、数年間のトレーニングにより、大きく厚い心臓を獲得することができる。心臓だけではない。肺や筋肉についても同じことがいえる。
 瞬発力と持久力の両方を手に入れることは可能なのだ。だがトレーニングの方法は時代によって変化する。それはより科学的で斬新な方法論が取り入れられた成果であることもあるし、環境からそうせざるをえなくなったというケースもある。
 たとえば最近ではフィジカルトレーニングにおいて、シーズン中はあまり長距離を走らなくなくなり、ダッシュなど無酸素的トレーニングに多くの時間を割く傾向が見られる。これはそれが正しい方法だというわけではなく、以前は試合と試合の間に確実に1週間のインターバルがあり、良好なフィジカルコンディションを得るために十分な準備をする時間があったが、現在はなくなってしまった、ということなのだ。

ダッシュのトレーニングをしなければパワーは少しずつ失われる。長距離を走らなければ少しずつ持久力を失う。これらを維持するためには原則的には週に1度はそのためのトレーニングを行う必要がある。

長距離走のトレーニングを全体の練習としてとれない場合は、個人的に日常のトレーニングの後に行うことで補うこともできる。目安としては20分で回復が、30分で維持が、40分でより高いレベルの持久力の獲得が、可能になる。もちろんこれは個々の選手の能力によって異なるので、心拍数をモニターしながら、目的に合った適切な強度で個別にトレーニングをする必要がある。

ポジション別トレーニングの例

 試合を分析すればわかるように、それぞれのポジションによりダッシュをする距離は異なる。トレーニングでも、その距離をもとにフォワード、ミッドフィルダー、サイドパック、センターバックというようにグループ分けをする必要がある。

フォワード

は試合中、短いダッシュを繰り返し行う。20m、30mの距離が中心となる。 したがってトレーニングでもこの距離のダッシュを数多く取り入れ、瞬発力、スタートの早さを身につけなければならない。

ミッドフィルダー

特にボランチなどの場合はより持久力が求められる。アタックのサポートをし、ディフェンスのカバーをするこのポジションの選手は試合中立ち止まることがない。スピードトレーニングよりも持久力を重視したトレーニングを重視する必要があるだろう。

サイドバック

試合中の基本は70〜80mのダッシュにある。したがって全体練習以外にも、この距離のダッシュを20本ほど繰り返すことが大切だ。このとき左右のサイドバックを−緒に走らせ、競争心をあおればスピードの向上に効果がある。ただしサイドパックは試合中いつも同じ距離を走るとは限らない。ロベルト・カルロスやカフーのプレーを思い出してほしい。彼らは70mのダッシュをして攻め上がった後、センタリングを上げ、休む間もなく70mダッシュをして自陣に戻ることも珍しくない。そこでこのようなプレーヤーのトレーニングではまず70〜80mの距離をMAXの80〜90%のトレーニング強度で走り、休むことなくまた70〜80mを50〜60%のトレーニング強度で走るというように、試合をシュミレーションしたトレーニングをする必要がある。

センターバック

プレーには短いダッシュやジャンプなどさまざまな要素が必要だが、一般的にはシーズン中のトレーニングでは、30m以上のダッシュを重視する必要はない。ただし選手のキャラクターやコーチの求める戦術によってもトレーニングの内容は異なってくる。たとえば攻撃的なセンターバック、また監督にそれを求められる選手は、短いダッシュやジャンプだけでなく、持久力を養い、維持していくトレーニングをしなければならないというわけだ。

ただ注意してほしいのは、どのポジションにしても、こうしたトレーニングを行うベースとしての無酸素能力を獲得しておかなければならないということだ。つまりシーズン前の準備期には200〜300mの距離のものを含め、ダッシュを十分に行っておかなければならない。シーズンに入ってからそれを長い距離のダッシュで無酸素能力を高めるのでは遅すぎる、ということだ。トレーニングで試合のときを上回る負荷をかけておけば試合では余裕をもつことができる。トレーニングでは、いつも本番より少し負荷を余計にかける、というのが基本になる。もちろんこの際トレーニングを行う時期を無視することはできない。試合の前日に試合以上の負荷をかけるのは本末転倒である。

トレーニング導入の際の注意点 

 上記のようなポジション別のトレーニングを組み立てるのは、チームの構成がある程度決まってくると簡単になる。難しいのはチームを作っている最中のトレーニングで、それは個別的であると同時に一般的なものになる。つまりそれぞれのトレーニングを少しずつ行わなければならない。
 たとえば試合中にサイドバックが退場になったとしよう。しかしベンチにはサイドバックの選手はおらず、ディフェンスではセンターバックの選手しかいない。監督は退場した選手の代わりにこの選手を起用せざるを得ない状況だ。もしこうしたケースを想定したトレーニングが準備されていなかった場合、彼は70mをダッシュして攻撃に参加したり、相手をうまくマークすることはできないだろう。
 ミッドフィルダーには持久力がある。90分プラス延長の時間、最大4Qm以内で前後左右、さまざまな方向に走り回る能力はある。だが急にサイドバックにコンバートされても、やはり順応することはできないはずだ。
 つまり交代する可能性がある場合、ポジションを移る可能性がある場合は、そのポジションで必要とされる能力をトレーニングで養っておく必要があるということだ。ブラジル代表ではメンバーが決まった時点で会議を開き、「この選手はこのポジションでプレーする可能性があるから、本来のポジションのトレーニング以外にこのトレーニングを行う必要がある」というようなことを話合う。
 またこれはあくまでプロフェッショナルな競技レベルの場合であって、育成レベルのトレーニングはより一般的になる。育成期、ジュベニール(ジュニアユース)、ジュニオール(ユース)のトレーニングの負荷とプロのそれとでは自ずと違ったものとなる。また年齢が低ければ低いほど、専門的なトレーニングが占める割合は低くなる。
 年齢とトレーニングの内容はピラミッドの形にたとえることができる。ベースとしてしっかりしたフィジカル、テクニックのレベルがあれば、頂点で行うべき専門的な、あるいは特殊なトレーニングも必要になる。それぞれの年代では、こうしたベースがなくても試合に勝つことはあるだろう。だがより高いレベルを目指すのであればベースとなる能力は必要不可欠だ。

註1

Luiz Carlos Pereira Prima

ルイス・カルロス・ペレイラ・プリマ
リオデジャネイロ・カステロブランコ大学を卒業後、ジュニア、ユースのフィジカルコーチを経て86年にポルトゲーザ(サンパウロ)のトップチームのフィジカルコーチに。その後、92年からブラジル代表のフィジカルコーチに就任。94年のW杯優勝に貢献した。ジュビロ磐田のフィジカルコーチを務めた後、元ブラジル代表監督マリオ・ザガロとサンパウロのポルトゲーザ指揮を執り、以来ブラジル在住。


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