食事法

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トレーニング

サッカーでは90分間にわたり、高いクオリティーの瞬発力を維持し、ダッシュを繰り返すことができるような能力が求められる。そのスタミナを維持するための食事学を紹介したい。

キーワードはグリコーゲン

 グリコーゲンとはブドウ糖のことで、脂肪とならぶスポーツの2大エネルギー源のひとつと言うことができる。少し詳しく説明すると、動物の体内に吸収された炭水化物が、ブドウ糖として肝臓や筋肉のなかに蓄えられるときにつくられる化合物がグリコーゲンで、動物牲デンプンとも呼ばれる。したがって炭水化物を多くとることにより、体内のグリコーゲンを増やすことができる。ただし体内のグリコーゲンの量は一般に、血中に放出されたものを合わせても体重の1パーセント未満。しかも人間が運動をするときにエネルギーを調達する過程で、その量は急速に失われていく。
 グリコーゲンはトレーニング中や競技中はも不足した状態を迎えることがある。その前に十分に貯蓄をする必要があるというわけだ。
 多くは1日に2回のトレーニングを実行しているサッカー選手にとっても、グリコーゲン対策は極めて重要である。
 たとえば午後のトレーニングの後にきちんと夕食をとり、就寝し、翌朝にもかなりの内容の朝食をとった場合でも、食後に血中ブドウ糖の上昇が認められないことは多い。これは夕食だけではグリコーゲンの補充が十分にはできなかったため、朝食でとった炭水化物がグリコーゲン合成のために向けられ、結果として血液中にブドウ糖が放出されなかったものと考えられる。
 ハードなトレーニングをするスポーツ選手が、夕食後にもバナナのような炭水化物食品をデザートや間食としてとるのはこのためである。        

グリコーゲン・ローデイング法

グリコーゲンを試合に合わせて計画的に蓄績させる方法

すなわちグリコーゲン・ローディング法(カーボ・ローディングとも呼ばれる)は、さまざまなスポーツの現場でとりあげられている。 
 たとえばマラソンの選手には、競技日に向けて、5〜7日間をかけて行うグリコーゲン・ローディング法がポピュラーだ。具体的にはレースの1週間前から2〜3日間は、炭水化物(ごはんやパン、うどん、いも、菓子類)を極度に制限した高脂肪・高タンパク質食をとり体内からいったんグリコーゲンを消失させるようにする。そして、その後競技日までの2〜3日間は高炭水化物・低脂肪食に切り替え、競技当日のレース前の食事まで、炭水化物を中心に食べるのである。
 このグリコーゲン・ローディング法の原理は、グリコーゲン合成酵素の働きが、肝蔵や筋肉内のグリコーゲンを減らすことによって上昇することに基づいている。したがって最初の2〜3日間に炭水化物の摂取を制限し、グリコーゲンを消失させることが、大きなポイントとなる。
 このグリコーゲン・ローディング法は、実施日数を調節したり、炭水化物の制限を変えたりするなどバリエーションはあるものの、実際多くのマラソン選手によって採用されている。
 またアメリカのメジャーリーグの投手のなかにも、中4日前後のさ非登板日を利用してグリコーゲン・ローディング法を実行する例がある。
 三振奪取王ノーラン・ライアンの場合は、登板した翌日(休養第1日目)と翌々日(休養窮2日目)にかなりのウェイトトレーニングを行った後、休養第4日目(登板の前日)の3食を"ノンミート・プロテイン・デー"(タンパク質を肉類以外の食品からとる日)として、ごはんやパン、豆類など、炭水化物中心のメニューの食事をとることで知られている。もちろんこの場合も登板日の朝食と昼食も、炭水化物食品をしっかりと食べるそうだ。

ただしサッカー選手の場合、マラソンや野球の選手のようなグリコーゲン・ローディング法は、参考にはなるものの、そのままとりいれるのは現実的ではない。午前と午後、1日に2回ハードなトレーニングが行われるというスケジュールや、1年のうちのかなりの期間をさいてリーグ戦が行われることを考えると、数日をかけてグリコーゲン対策をとれる余裕のないことは明白である。正月に行われる高校サッカー選手権のように、試合が連続して行われるような場合はなおさらだ。

 そこでサッカー選手に有効だと思われるものとして、次のような食事を紹介したい。グリコーゲン・ローディング法を発展させた、急速グリコーゲン・ローディング法と呼ばれるものだ。

方法自体は実に簡単なものだ。要は炭水化物の摂取に合わせて、クエン酸をとるだけでいい。ひと言でいえばクエン酸は、体内のエネルギーを消費するモードから、貯めるモードへと切り換えるスイッチの役割を果たすのである。 
 少々専門的な事になるが、そのメカニズムを簡単に説明してみることにしよう。
 これまでの連載でも何回か触れたように、人間が運動をするときのエネルギーの調達経路には大きく分けて2種類がある。ひとつは無酸素の状態からエネルギーを得る経路(アネアロビック系)、もうひとつは有酸素の状態からエネルギーを得る経路(エアロビック系)だ。
 ダッシュなどの全力運動を行ったときの運動エネルギーは、まず筋肉中のATP(アデノシン三リン酸)が分解することでエネルギーを得る。ただしこのATP は1〜2秒で消費きれてしまう。さらに運動を続けると、クレアチンリン酸が分解されることによってADP(アデノシン二リン酸)からATPが再合成されエネルギーが供給される。しかしこれも7〜8秒で消費されてしまう。この後は筋肉中のグリコーゲンを乳酸に分解することにより、ATPの再合成エネルギーを得ることになる(これを解糖という)。この解糖の過程においては、疲労物質である乳酸が生まれる。乳酸などの代謝産物が筋肉中にある一定以上蓄積されると、それ以上はエネルギー発生の反応は進まなくなる。全力で走ると300〜400mほど(40秒程度)で苦しくなってしまい、ほとんど走れない状態になるのはそのためである。        
 クエン酸には、この解糖の活性を阻害する作用があることが知られている。
 スポーツによって筋肉や肝臓のグリコーゲンが消耗したところで、ごはんやパン、パスタ、いもなどの炭水化物食品を食べることはもちろん大切だが、その後にクエン酸を摂取すると、筋肉や肝臓のグリコーゲンの回復はより著しいものとなる。クエン酸をとらずに炭水化物だけをとった場合は、炭水化物のかなりの部分は解糠により分解されてしまい、グリコーゲンの合成に回る割合がそれだけ減ってしまうことになる。つまりグリコーゲンの回復の効率が悪くなってしまうのだ。


クエン酸はオレンジなどの柑橘類に多く含まれている。基本的には毎食後のデザートとして柑橘類を食べたり、オレンジジュースを飲むだけでかなりの効果を期待することができる。
 オレンジの他にもうひとつ注目してほしいフルーツはバナナだ。バナナは本来でんぷん質の食品だが、成熟の過程ででんぶんがぶどう糖や麦芽糖などの消化・吸収の速い炭水化物に変化し、その混合体が含まれている。クエン酸に組み合わせる炭水化物食品としてスポーツ選挙に愛用されるのはそのためなのである。
 量的に多いトレーニングを行っている集団のトレーニングと食生活のリズムを見ると、オレンジやバナナなどのフルーツと穀物をかなりの頻度で食べることが多い。クエン酸の効果をいかした急速グリコーゲン・ローディング法は、今日スポーツの世界で広く利用、応用されている。

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