効果的な栄養摂取

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トレーニング

トレーニングをトータルな意味で理解するために、これまでの連載では、トレーニングの要素と して、≪トレーニング≫そのものと、≪回復≫について説明をしてきた。今回はもうひとつの重要 な要素である《栄養≫について述べることにしよう。

トレーニング(刺激)とは、いわば生産的な破壊である。回復(休養)はそれを修復して、より強いものにす ることだ。そして回復にとって必要なもの、それが栄養なのである。新たに筋肉や毛細血管をつくるにしても、 十分な材料が補給されなければそれは不可能だ。トレーニング(刺激)によって「つくれ」という命令が出ても、 材料がなければ不可能なのだ。しかもこの「つくれ」と いう命令は、出し続けられているわけではない。命令が 出されたある一定の期間に、必要な材料が血管を流れていて、初めて効率良く筋肉などをつくることができるのだ。

 ここでまず最初に知っておいてもらいたいのは、栄養とは薬ではない、ということだ。"これを食べたら強くなる"というものでもない。食物には栄養素や栄養成分が含まれているが、それらが体内でとのような働きをするかは、食べる人の条件や食べ方によってもかなり違ってくる。たとえばよく言われる "栄養のバランスのとれた食事"をとっても、その後すぐに寝てしまえばただ太るだけの食事になる。逆にウェイートトレーニングの後にプロテインをとり筋肉をつけようとしても、その後さらに身体を活発に動かせば、効果的に筋肉をつけることが できない。栄養効果が得られるか得られないかは、食後の利用のしかたしだいだと言ってもいい。

食物イコール栄養がある、とは必ずしも言えない。同 じ食事をとっても、その栄養効果はその時間や食事の前後のトレーニングの内容によって大きく変わってくるの だ。

 何より大切なのは食べるタイミングなのである。

 現代のサッカーでは、パワーやスピード、スタミナを高めるための筋肉づくりや持久力がますます重視されるようになりつつある。またテクニックはフィジカルコンディションにも多くを依存し、戦術もまた体力を抜きに して語ることはできない。

 サッカーで必要な栄養に関しては、「トレーニングに見合ったエネルギーを摂取し、それにともなってタンパク質やビタミン、ミネラルの量を決め、その所要量を目標 にバランスよくとればいい」と考えられがちだが、バランスのよい食事をとってさえいれば、自然にパワー、ス ピード、スタミナがつき、サッカーに適した身体ができ るというわけではない。

 身体づくりにもっとも貢献するのはトレーニングであり、食事や睡眠はトレーニング効果を高めるために不可欠な補助的役割を果たしていると考えることができる。 したがって何より優先しなければならないのは、1日の生活のなかで、どのようなトレーニングをどのようなタイミングで行えばいいかを科学的に決定することだ。そしてそれに合わせて食事のタイミングを決め、さらに食後の身体の休め方について、睡眠を中心にタイミングを決めていく。

 私の場合もスペインにいた18〜19歳のころ、こうして定めたライフスタイルを実行することにより、急激にパ ワーアップをすることができた。大切なのはトレーニン グと食事と睡眠という3要素のタイミングとリズムを合理的にセットし、生活を意味のあるスタイルにコーディネイトしていくことなのだ。

ここでウェイトトレーニングを例に、筋肉がどのようにつくられていくかを簡単に説明しておこう。

 ウェイトトレーニングなとの負荷の重いトレーニングは、基本的に2つのメカニズムにより筋肉づくりを促進する。

ひとつめは、筋肉繊維に微細な損傷を与え、その修復作業を過剰に行わせることによって筋肉繊維を太くしていくというメカニズム

これは多くの身体の組織が損傷を受けたときに見せる基本的な対応を利用したものである。このとき重要なのは、損傷の程度を適度なものにすることと、ウェイトトレーニングの後は筋肉への運動刺激を避けて、回復を促進させることだ。

 筋肉繊維に与えるダメージを適度なものにするため、たとえばバーベルの重量と運動の回数をどうすればいいかということなどについてはすでに研究がなされており、 トレーンニグの基本条件は確立されていると言っていい。しかしウェイトトレーニングをした後に筋肉に対して刺激を与えないという点は必ずしも守られているとは言えない

 例をあげると、ウェイトトレーニングの後に専門種目の技術トレーンニグをしたり、ジョギングをするというような不合理なことが、スポーツトレーニングの現場ではごく当たり前に行われている。これではせっかくのウェイトトレーニングも、その効果は著しく小さいものになってしまう。ウェイトトレーニングを実行したら、マッサージ、軽い水泳などで筋肉をもみほぐし、その後は身体を休養きせて筋肉の補修作業を促すようにしなければならない。

 1日のリズムで言えば、昼食前にウェイトトレーニングを行ったら、昼食後数時間は昼寝の時間をとるようにする。あるいは夕食後しばらく休んだ後、就寝の前にウェイトトレーニングを行う、などのパターンが考えられる。 またウェイトトレーニングの量が多い場合は、1日のリズムを配慮するのはもちろん、トレーンニグをした翌日を休養日にあてる、2日連続でウェイトトレーニングをしないようにするなど、日を超えたマネージメントも必要となる。一般にヘビーなウェイトトレーニングは、 2日の休養をおいて週2日程度行うのが適当だとされて いる。

第2のメカニズムは、ウェイトトレーニングが成長ホルモンの分泌を促進するという作用 により引き起こきれる。成長ホルモンは筋肉による血中 アミノ酸の取り込みを促し、また筋肉によるタンパク質の合成を活発化させる。

この際成長ホルモンの血中レベ ルは、ウェイトトレーニング終了後1〜2時間でピークを示すその時間に身体を休め、筋肉へのアミノ酸供給が活発になるような栄養的条件をセットすることが、ウェイトトレーニングによる筋肉づくり促進効果を高めることになる。

 タンパク質の合成に必要なアミノ酸を供給するためには、食事でタンパク質を多く含んだ食品をとることが大切であるのは言うまでもない。しかし一部のサッカー選 手が実行しているように、プロテインを牛乳に加えてとれば筋肉がつくというような単純なものでもない。

 ここでもっとも大切なのは食事のタイミングだ。
 ウェイトトレーニングやダッシュなど重い負荷のトレーニングと成長ホルモンの関係について述べたが、ピークとなる時間はトレーンニグ後の1〜2時間しか持続しない。その間に血中にアミノ酸が流れていないと、その成長ホルモンはむだになってしまう。つまりこの場合は、 ウェイトレーニングを実行する1〜2時間前に食事でタンパク質を十分摂取しておき、それが消化吸収されて 血中アミノ穀のレベルが上昇しかかるころにウェイトト レーニングを実施する、というタイミングが合理的だ。
 たとえば夕食でタンパク質をとった後、就寝前にウェイトトレーニングを行うというのはこの意味でも理にかなっているのだ。但しこれは入眠を妨げることがあるので注意しよう。
  ちなみにもうひとつ、ウェイトトレーニング終了後、30分と間隔をあけず食事をとるという方法もある。

「寝る子は育つ」と言われるが、睡眠にもウェイトトレーニングと同じく筋肉づくりを促進する作用がある。

そのメカニズムを簡単に説明すると、まず第一に、いわゆる物質の代謝は、日中の活動期には分解が活発に行われ、合成が抑制されるのに対して、睡眠中には逆に分解が抑制され、合成が活発に行われることがあげられる。
筋肉の合成も、睡眠中により活発に行われるのだ。また もうひとつには、睡眠に入ると、複数のホルモンの働きによりタンパク質の合成が活発に行われることもあげられる。
 このうち成長ホルモンによる作用は、夜間の睡眠のほか、昼寝中にも認められる。これはサッカー選手にとっても見逃せない事実のはずだ。ブラジルやヨーロッパで は14〜15歳からクラブでの合宿生活に入ることも珍しくないが、彼らにとっては午前中のトレーンニグの後に食事をとり、昼寝をし、そして午後3時ごろから再びトレーニングを行うというのが日常の生活になっている。 成長期の選手にとっては非常に合理的なスケジュールが 組まれているというわけだ。
 最後になってしまったが、実は骨づくりに関しても、 筋肉づくりと同じことが言える。  
ウェイトトレーニングや睡眠による成長ホルモンの分泌促進は、カルシウムの骨への取り込みを増大させる。 こうした作用が日中の活動期より睡眠中に活発になるのもタンパク質と同様だ。したがってカルシウムは夕食どきから就寝までの時間にとるのが合理的だ。カルシウム源としてもっとも利用しやすい食品は牛乳だが、ふろ上がりに牛乳を飲むのはとても効果的な摂取方法なのだ。

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