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トレーニング

コンディショニングの調整がいかに重要か

サッカーにおいてコンディショニングの調整がいかに重要かは、これまでもさまざまな場面て述べてきた。リーグ戦はもとより、これが一発勝負のトーナメントに勝とうとするならなおさらだ。ところでトーナメントの例として、正月に行われる高校選手権を思い出してほしい。第74回高校サッカー選手権は、次のようなスケジュールで行われた。

第1回戦 12月31日 
第2回戦 1月2日 
第3回戦 1月3日
準々決勝 1月5日 
準決勝 1月7日 
決勝 1月8日

おそらくこのような過密スケジュールで、特にジュニアレベルのトーナメントが行われるのは世界的にも稀てあろう。サッカーというスポーツの運動量を考えると、これでは苦行と言ったほうがいい。

 余談になるが、なぜこのようなスケジュールなのだろう。冬休みの期問中でないと大会が開催できないとするなら、なぜ12月31日ではなく、もっとそれ以前からスタートしないのだろう。大会を支えるマスメディアや企業の都合なのだろうか。ことは日本の文化レベル低さにも通じる、重要な問題だ。
 このスケジュールでまともなコンディションを維持するのは土台不可能である。選手を2チーム分用意し、試合ごとに総入れ替えできるならともかく、それも登録メンパー数や戦術、士気の間題を考えたら不可能だろう。スケジュールはせめて、3日間に1試合というぺ一スに変えるべきなのだ。それを今までしてこなかったのは、スポーツに関わる者が、ひとえにスポーツを軽視し、スポーツに関する科学的情報を尊重してこなかったがらにほかならない。こうしたシステムに批判を加えないジャーナリストと呼ばれる人たちの問題かもしれない。文化レベルと言ったのは、企業やメディアばかりでなく、我々日本人ひとりひとりのレベル、という意味でもある。

 繰り返すが高校サッカー選手権のような大会で、身体を壊さずに、試合のためのコンディションをつくることは不可能である。だが、それを少しでも改善する方法はないわけではない。そのためには大会までにハードトレーニングを積まなけれぱならないのはもちろんだが、大会前には十分に回復させ、なおかつそれまでに積んできたトレーニングの効果
を失わず維持しなければならない。ただし選手の心理面や場所、競技レベルにも影響されるので、そこには決まったセオリーなどないに等しいと思われる。現場の選手やコーチが、科学的情報をもとに、試行錯誤を繰り返しながら、調整していくしかない。そのときにはぜひ、超回復の理論をイメージしてほしい。以下、回復についてのさまざまな方法をあげておくことにしよう。

真剣にサッカーに取り組み、1日2−3回のトレー二ングを積んでいる選手(1度に3時間も4時間もトレーニングするよりは、午前午後に分けて1時間半ずつ行ったほうが効率が良い。集中力を90分以上維持するのは難しいし、疲労を回複させてから次のトレーニングに入ったほうが効果が上がることは超回復の理論でも明らかだ)が、身体的にも心理的にも追い込まれ、退化とパフォーマンスの低下に陥ることがある(連載3回目参照)。選手に要求されるのは、単にグラウンドでトレーニングや試合をすることだけてはない。そこではプライベートな時間も重要な位置を占めている。広い意味では疲労回復も、極めて重要なトレーニングの一部だからだ。疲労に対処するためには、選手は、トレーニング、試合、社会生活、そして選手自身の回複の度合いという各要素の適度なバランスを保たなければならない。そのためには自分自身の疲労の度合いと回復のスピードを、なるべく客観的に知る必要がある。このタイプのトレーニングをして、体感でこれぐらい疲れたら、これぐらいの回復期間が必要てあり、その間には何をすべきか、といようなことを知るということだ。ここで「体感」をより客観的にとらえようとするなら、トレーニングの内容と時間とともに安静時心拍数、起床時の主観的な回復の度合い(非常に疲れている、疲れている、回復している、完全に回復している。など)、さらに気候や天気などを記録することをおすすめしたい。起立心拍テストも有効だろう。ここで強調したいのは、回復はトレーニングの重要な要素のひとつであり、ただ自然に任せてそれを待っているのではなく、積極的に取り組まなければならない、という点だ。当然そこにはテクニックが存在する。たとえぱこの連載のなかでも、マイクロサイクルのなかでは高い強度のトレーニングと低い強度のトレーニングを交互に行わなけれぱならない、という話をしてきた。これはまさに回複のテクニックのひとつなのだ。適切な回復はトレーニングとトレーニングの問の再生と疲労の減少をうながし、超回復を促進させる.それにより次回のトレーニングをさらに負荷の高いもの、難しいものにすることができる。さらにそれは怪我の減少にもつながる。それほど回復は、がけがえのないトレーニングの構成要素なのだが、このことについてはまだ、コーチ、選手ともに十分な注意が払われていないのが、現状である。回複の方法を紹介する前に、知っておいてもらいたいことを列記しよう。

まず回復力は個々の体力レベルや年齢、性差、経験により個人差があり、しかも気候や高度などの影響を受ける。これらを十分に考慮したうえで、けっして選手をマスとして扱わないということだ。また回復は人間のメンタルな部分とも密接に関係している。心理的消耗は回復力低下につながる。また、強い感情的な疲労を経験したときには、心理学的な
リラクゼーションのテクニックを使うこともある。一般に心拍数と血圧は作業終了後20−60分以内に回復するが.糖質の回復には4−6時間、タンパク質では12−24時間、そして脂肪、ピタミン、酵素では24特間以上かかると言われている。回復の方法がトレーニング後6−9時間の間に用いられると、より効果は増すように思われる。

<回復の意図と方法>

1・自然な回復方法

運動療法(積極的休養)
トレー二ング終了後、軽い有酸素運動(トレーニング心拍数50〜60%)によって代謝を促進し、疲労物質の除去を助ける

完全休養(消極的休養)
睡眠のこと。睡眠は回復の主要な方法といえる。選手にとって9−10時間の睡眠は必要。トレーニングスケジュールに影響しないかぎりは、昼寝も夜の睡眠の不足分を補うために有効だ。心理学者は、選手は自由な時間に睡眠をとるように指示している。リラックスした眠りを促進するためにはリラクゼーションのテクニックやマッサージ、暗く静かて新鮮な空気の部屋が必要だ。反対に感情的な活動は、眠りにマイナスの影響を与える。

ライフスタイル
家族や同僚との関係やチームの雰囲気は選手の回復の度合いに影響する。友好的な人間関係や数々のレジャー(娯楽)、コーチとの友好的で心地よいディスカッションなどは感情的なストレスを発散させ、意志と自信、創造力を強くするために役に立つ。トレーニングとフリーな時間とのパランスがとれたライフスタイルが、回復の度合いを間接的に助けるのだ。

2・物理療法

マッサージ
マッサージやセルフマッサージには、体の組織から有害物質を除き、緊張を減らすなどの効果がある。トレーニングの前の(一般的なウォームアップの後)に15−20分間、トレーニングを終えシャワ一を浴びた後 8−10分間、また温浴やサウナの後なら20−30分間程度行うとよい。

電気刺激と超音波
いずれも選手のリラクゼーションと回復に有効であるが、専門家の指示に従わなければならない。筋肉に対する電気刺激は局所の血夜循環と筋肉中の代謝のプロセスを改善する。また超昔波は深部の組織に働きかけ、腱と靱帯の痛みを和らげ、軽度の外傷に対しては腫れ止めの効果もある。温水ホットシヤワー(38−42度)8一10分間、温浴10−20分間などは、筋肉をリラックスさせ、血夜循環を促進させることにより回復を早める。高ぶった神経をなだめ、睡眠をうながし、代謝のプロセスを改善させる。

3・大気療法

酸素の補給
選手はトレーニングや試合て大量の酸素を消費する。そこでヨガなどの呼吸法を取り入れたり、酸素吸入により、トレーニング、試合の前・中・後に酸素を補充する。ロッカールームなどには新鮮な空気が行き渡るようにする。

空気イオンの導入
空気中のマイナスのイオンには心肺機能の回復を促し、神経や精神のリラックスを促進する働きがある。公園や森など植物の豊富なところにはマイナスのイオンが多く、その中を歩くだけでも効果がある。またロッカールームに空気清浄機などを置くことて人工的にも獲得てきる。 

4・栄養分、特にビタミン、ミネラルなどの摂取

(これについては回を改めて詳しく説明したい)

5・心理療法

神経細胞の再生・回復には筋の細胞より7倍の時間がかると言われている。それだけその回復には十分な注意を払う必要がある神経の疲労が回復すれば、選手はそれだけプレーに集中でき、よりパワフルに、スピーディに反応することができるのだ。心理的な疲労の予防には、モチベーションをしっがり持つこと、ポジティプな感情を持つこと、そしてポジ
    ティブなチームの雰囲気を保つことなどがあげられる。メンタルトレーニングについても、別の回で詳しく述べることにする。

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