サイクルトレーニングの具体的内容

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トレーニング

トレーニングの具体的な異様

トレーニングはトレーニングのために存在しているわけではない。目標は常に試合にある。それではトレーニングの効果を最大にして試合に生かすにはどうしたらいいのか。鍵を握っているのは、トレーニングの期間をいくつかに分割し、内容を変えていくサイクルトレーニングだ。

これまでその重要性をしつこく強調してきたサイクルトレーニングの具体的内容を紹介する前に、考慮すべきボイントをあげておこう。ひとつはトレーニングの時間だ。以前、ジーコやソクラテスとサッカースクールを通じて全国各地の様々なチームを見て回るうちに、彼らプラジル人と、日本人では、トレーニング観が大きく異なることに気がついた。そのひとつとして長時間トレーニングすることにより、ハードなトレーニングをしたと思ってしまうチームが多かったことを覚えている。言うまでもなく、プラジル人にとって長時間のトレーニングと、ハードなトレーニングというのは、まったく別の意味をさすものであった。

 サッカー先進国の練習は、1回のトレーニング時間は短く、かつハードに行われる。こうした事実を客観的に調べた著書があるのでぜひ紹介しておきたい。(「コンディショニングの科学」朝倉出版/トレーニング科学研究会より)。

 その中で著者はサンプドーリア(イタリア)の16歳以下のチームの選手、パイエルン・ミュンヘン(ドイツ)の18歳の選手の練習時間と心拍数を測定、比較している。それによると、トレーニングの内容こそ異なるものの、サンプドーリアとパイエルンの選手の間にはそれほど大きな差は見られず、練習時間は 60−90分で、心拍数は約180/分を頻繁に越えるなど、高い位置で行われていることがわかった。
 これに対して日本の選手の練習時間は2時間を超えているが、心拍数は160を超えることはまれで、あまり上がっているとは言えない。

 こうした練習が試合でどのように反映されるかは明白だろう。実際の試合では心拍数がかなり上がるにもかかわらず、それをかなり下回る強度でトレーニングを続けていたら、試合の場で技術を発揮したり、正しい判断をするのが難しくなることは容易に予想されよう。
 短時間でハードな練習をすることの重要性をおわかり頂けたと思う。 


時間と強度の次に注目してほしいのはサッカーというスポーツの持つ性格だ。サッカーはどのような運動の組み合わせによって成立しているのか、と言い換えてもいい。

 ゲームではたゆまなく走り、止まり、回転し、ダッシュし、ジャンプをしたりする。しかもこれらの動作は、足でボールをコントロールしながら、あるいは蹴られたボールに合わせて行わなければならない。そしてゲームは最低90分間行われる。  さまざまなスポーツのジャンルの中で一般にサッカ一は、バスケットボールやラグビー同様、中程度の酸素消費量の種目とされる。

 これに対して短距離走やジャンプ、ウエイトリフティングなどの種目は無酸素的(アネロビック)(下注1)なスポーツ、逆にマラソンやクロスカントリーは有酸素的(エアロビック)(下注1)なスポーツと言われる。
 無酸素的なスポーツでは、筋肉は短い時間に大量のエネルギーを必要とし、酸素をエネルギー生産に利用する時間的余裕がない、酸素を利用する前に競技が終わり結果が出てしまっている。そこですでに筋肉や肝臓に蓄積されているエネルギー源(ATP-CP系と乳酸系)(下注2)を筋肉内で化学変化させエネルギーに代える。
 これに対して有酸素的なスポーツは、マラソンのように、呼吸を十分に行い、酸素を体内に取り入れエネルギー生産に利用しながら行う運動のことである。簡単に言ってしまえば、サッカーはスピードと持久力、そのどちらもが必要な種目ということになる。



実際にサッカ一の現場にいるコーチやプレーヤーの方はおわかりだと思うが、トレーニングの内容を考えたとき、特にスピードに関してはまだ改善の余地を多く残しているケースが多い。スビードを向上させるためにはどの点に重点を置いて強化を図ればいいのか。「ウィダー・コンディショニング・バイブル/森永製菓株式会社・健康事業部」では、次の5点をあげている。

1.加速

2.ストライドの速さ

3.ストライドの長さ

4.スタートの能力

5.無酸素トレーニング (下注3)

 これらを強化するためのトレーニングを適切に組み入れていくことが重要になるわけだ。 

プロのサッカ一選手の1年間は、シーズンオフとプレシーズン、シーズンの3つのステージに分けて考えることができる。

これをひとつの周期としてとらえるのがサイクルトレーニングの基本であることは連載の3回目で述べた。ここではやはりこの分類に従って実例を示すが、残念ながら日本の学校スポーツには適用できるものではない。現状では、やがて日本のサッカ一も若年層のうちからリーグ戦がスケジュールの土台となることを期待する、としか言いようがない。

シーズンオフ

 サッカーの場合、1年のうちシーズンの占める割合が高いことを考えれば、1−2カ月の完全休養は絶対に必要だ。1シーズンを戦った後の肉体的、精神的疲労は大変なもの。次のシーズンに向け、再ぴサッカーをやる気になるためにもオフの過ごし方は重要である。

 ブラジルでは多くのプロ選手がこの時期、家族とのんびりくつろぎ、気のおけない友人とビーチサッカーを楽しみ、浜辺に寝そべってはハイレグ姿の娘たちを眺めていた。要は競技としてのサッカーのことは忘れ、ひたすらリラツクスをしていた。それだけだ。

 ただしプレシーズンのトレーニングに入る前にひとつ、習慣化してほしいことがある。これまでにも何度も述ベたが、安静時心拍数(朝、起床直前の心拍数)と体重を毎日測り、記憶することだ。もちろんこの作業はトレーニングが始まってからも続く。この数値は基礎データにトレーニング中の心拍数を測定、分析するわけだが、欧米のチームではハートレートモニターなどの器具を導入しているところも多い。

プレシーズン

シーズンから始まる5−8週間前後をプレシーズンの時期という。

 一般的にスポーツのプレシーズンといえば、シーズンが始まる直前の、かなり実戦的なトレーニングを行う時期というイメージが強いかもしれない。このことはサッカーの場合にもあてはまるが、同時にサッカーにおけるプレシーズンは、筋力や持久力アップなど基礎体カづくりの時期でもある。これはプロサッカ一の世界ではシーズンが8カ月以上に及ぶことも珍しくなく、ゆっくりと基礎づくりをしている暇がないという理由からきている。

 プレシーズンの最初の2週間はあまりボールを使わず、持久力を高めるためのトレーニングをする。具体的にはトレーニング心拍数を70−80%とし、ランニングやクロスカントリーを行う。ランニングは砂浜や川の土手、学枚のグラウンドなど、未舗装の地面で、しかも場所を変えながら行うのが望ましい。柔らかい地面を、クッション性の高いジョギングシューズて走ることだ。

 次の2週間は、無酸素トレーニングが中心となる。トレーニング心拍数を80−90%の強度で、短拒離ダッシュやインターパルトレーニングを行う。プラジルではよく5メートルおきに杭を立て、10メートルダッシュをしては5メートル戻り、また10メートルダッシュをしては5メートル戻る・・・という繰り返しのトレーニングを行っていた。まだボールを使う場面は多くない。

 4週目ぐらいからはこれに器具を使ったサーキットトレーニング、ハードルを飛ぴ越えながらへディングをするなど複雑な動きをともなうトレーニングが加わる。このころになると練習試合などもトレーニングメニューの中に組み込まれていく。最初は比較的強いチームと当たり、開幕が近くなるにつれて対戦相手のレベルを下げていくことが多い。

 この頃になるとかなり疲労も蓄積しているはずで、起床時心拍数と体重の変化に十分注意をする必要がある。異常な変化が見られた場合は、メニューを変更したり休みを取ったりしなければならない。オーバートレーニングになる寸前のところでトレーニングをする、というのがベストだろう。

 シーズン開幕のl〜2週間前からはトレーニングの量を落としてゆき、疲労から回復させる。

シーズン

週単位のマイクロサイクルトレーニングの繰り返しが基本となる。具体例メニューは次号で詳しく紹介するがここではもう一度プラジルの年間サイクルトレーニングの一例を示した表(1サイクルに分けてトレーニングの内容を変える重要性)を御覧になっていただきたい。これによると3月にシーズン入りした直後は、明らかにボールを使った実戦的トレーニングや戦術的トレーニングからなる「専門的トレーニング」よりも、基礎体力の養成に力点を置いた「一般的トレーニング」が重視されているのがわかる。これもまた長いシーズンを乗り切り、平均的にコンディションを維持しなければならないサッカーという競技の特性からくるものである。

注1:有酸素か無酸素か


エアロビック(Aerobic)ということばは、「酸素を使って」、アネロビック(Anaerobic)は、「酸素なしで」という意味である。いろいろなトレーニング負荷の下で、身体の内部で何が起こっているかを理解するためには、この2つのことばに注意する必要がある。最も大切なことだが、無酸素の条件は、スプリント、ジャンプ、ウエイトリフティング、フットボール、滑降(スキー)などのような「オール・アウトになる」スポーツ種目を行なう場合の、決定的な要素になるということを理解しなくてはならない。これらの種目では、筋での酸素の必要量が多いので、循環器系は、必要量を供給しきれない。そうなると、筋は、酸素のない状態で筋自体が、化学的過程を使って、できる限り長くはたらき続けようとする。それができなくなった時には、筋の中の乳酸のレベルが上がっていて、筋の疲労を感じる。疲労を避けるには、スポーツの種目によって、必要とする酸素の量が異なることを知っておいた方がよいだろう。酸素消費量が中程度の種目は、レスリング、バスケツトボール、サッカー、テニスや他のラケットスポーツ、クロスカントリースキーなどである。砲丸投げやウエイトリフティングのような純粋に筋力に関係する多くの種目は、無酸素的なものである。これらの種自のためには、酸素備蓄と、循環器系の効率を増すように考えられたウエイト・トレーニングのプログラムが、明らかに有効である。

走ったり泳いだりする場合、だいたい3分間前後(7〜8分間まで)では、有酸素的、無酸素的の両方のエネルギー生産経路からほぼ等しくエネルギーを得ていることが、研究者により確認されている。Aerobic WeightTraining,Fred C.Hatneld Ph.D.よリ(1985,Contemporary Books,Inc.)(ウイダー・コンディショニング・バイブル)

注2:エアロビックとアネロビック

 運動のエネルギーは生体内では、ATP(アデノシン3リン酸)がリン酸を1つ分解してADP(アデノシン2リン酸)になる過程で得られる。ATP→ADP+PO4+エネルギー

 生体内のATPは少量しかないので、ADPにリン酸を再合成してATPを作りなおす過程が必要となる。この過程はスピードの早いものから順に利用される。

(1)ATP-CP系(非乳酸性機構):7.7秒

(2)無酸素的解糖系(乳酸系):33秒

(3)有酸素系(有酸素的解糖、クレプス回路、電子伝連系の3つに分けられる):

 以上の3つの回路が運動強度や時間に応じて順に利用される。

(1)と(2)を無酸素的エネルギー(anaerobic enefgy)と呼び、8+33=41秒間続けることができる。従って41秒以内で終了する。最大に近い力を出して行なうスポーツをアネロビック・スポーツと呼ぶ。ちょうど短距離走などで、呼吸運動している余裕のない激しい運動である。(3)を有酸素エネルギー(aerobic enefgy)と呼び、酸素と栄養源がある限り遅動を続けることができる。ちょうどマラソンのように、呼吸を十分に行なって、酸素を十分に体内にとり入れながら行なう運動で、単位時問での運勤強度は低い。このような運動をエアロピック・スポーツと呼ぶ。この中間のスポーツでは、両者からのエネルギーを用いる。

ATP一CPと乳酸
 運動するエネルギー系路の話。運動する筋の収縮エネルギーはATP(アデノシン3リン酸)がADP(アデノシン2リン酸)に分解する過程で生じる。しかし細胞内のATPは5〜6秒で消費してしまうので、新たにADPをATPに再合成して再利用する回路が必要である。まず、クレアチンリン酸(CP)がリン酸を放出する過程で生じ、この2つを合わせて ATP一CP系と呼ぶが、この両者での運動持続時間は10〜18秒である。これ以後は、酸素が十分にないと、グリコーゲンを解糖してピルピン酸になる過程で保たれ、ピルビン酸はさらに酸素不足のため乳酸となって細胞外に流出する。この過程では30〜40秒間持続して運動できる。この過程を(グリコーゲン)乳酸系という。

 ATP-CP系と乳酸系は酸素がなくても生じるので、無酸素性過程(アネロビッグ・プロセス)と呼ぶ。

注3:インターパル・トレー二ング

トレーニング方法の説明。
 レペティション・トレーニングは、運動の1単位ごとに完全休息があるもの。例えば50mをダッシュして走り、帰りはゆっくり歩いてもどり、再びダッシュする。無酸素能力、スピード、フォームの向上によい。

インターバル・トレー二ングは不完全休息型。例えば、50mダッシュして帰りはジョギングしてスタートまでもどって再びダッシュ。有酸素的能力、とくに高度の持久力を向上させるが、つらい。

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