効果的なトレーニングを行うために

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トレーニング


     フィジカル面でのコンディション作りから、その時々における精神状態まで、これまで、さまざまなことを述べてきた。それらを十分に踏まえた上で各個人に最適なトレーニング方法を考え、一層のレベルアップを図って欲しい



    この連載ではこれまでに、さまざまな角度から「どのようなトレーニングをすべきか」について述べてきた。
    あわせて、トレーニングのプログラムは個々の選手によって組まれるべきものであるとも強調してきたつもりだ。
    今回はもう一歩踏み込んで、「どの年齢のときにどんなトレーニングをすべきか」について、フランス国立フットポールセンター(CTNF)のフランシスコ・フィジョ氏に話を聞いた。


     CTNFはいわばフランス・サッカー界の"虎の穴"のような存在である。12歳から17歳までの選手が、プロフェッショナルになるためのトレーニングを日々積んでいる。平日はCTNFで合宿生活を送りながら学校に通い、週末になると家に帰るというシステムをとっている。
     在籍しているのは“選ばれた”子供たちだ。CTNFの卒業生はすでに300人に及び、うち200人以上がプロフェッショナルになっている。古くは元フランス代表のパパンが、最近ではモナコのアンリやアーセナルのアネルカがここを巣立っていった。
     そのCTNFでコーチを務めるフィリョ氏はブラジルのサンパウロ生まれながら、選手として欧州各地で活躍、そのままフランスに残り、以後フランスサッカー協会で25年にわたり若手の育成にあたってきた人物だ。現在フランスは欧州随一の選手輸出国として知られているが、その秘密の鍵を握るキーパーソンのひとりと言っていい。以下はそのフィリョ氏との一問一答である。

 サッカーのトレーニングを始める時期について

「さまざまな考えがあるが、現実に7〜8歳になるとサッカースクールに入ることができる。それまではできるだけいろいろな種類の運動をしたほうがいいでしょう」

 幼児期

「2歳から5歳までは、神経系における成長が著しく、運動技能の発達にとって大変重要な時期。単純な、走る・ジャンプする・投げる・蹴るといった運動技能の導入期で、バラエティに富んだ運動を経験し、なおかつ必ずそれを楽しむ機会が多くあるようにすべきでしょう。けっして強制したり、激しい運動をさせるべきではありません」

   児童期

「6〜12歳は、神経がより発達し、新しく複雑な技術も時間をかけて獲得することができる年代。ただし激しいトレーニングやウェイトトレーニングはすべきではありません。持久力に関しては、激しい運動をしなくても習得することができるので、徐々にトレーニングを始めてもいい頃です。低い心拍数で少しずつ有酸素能力を高めていき、16歳ぐらいまでに基本的な持久力を獲得するようにすればいいでしょう。また10〜12歳では、スピードのトレーニングを、乳酸があまり生産されない程度の時間、簡単に言うと10mほどのダッシュを十分なインターバルをとって行うことができます。
     ただし17歳まででもっとも大切なのは、毎日のトレーニングを喜んで行うことです。この年代では技術を習得することが重要であり、そのためには毎日トレーニングを行わなければならない。これを持続させるには、疲れ過ぎてはならないのです。毎日喜んで技術の習得ができるようなレベルの強度で継続し、基礎技術を完成させるのです。技術トレーニングも、それだけで十分にフィジカルトレーニングになっています。それは心拍数を測れば分かることです。
     20年前は、フランスでも誤った知識によりトレーニングをやり過ぎる傾向がありました。今では科学的にも、トレーニングは量ではなく質であることが分かっています。プロフェッショナルに必要な激しいトレーニングは、技術を完成させた後に行うべきなのです」

青年期

「思春期は青年期の始まりを意味し、個人差にもよりますが12〜14歳からでしょう。青年期の選手は外見上成人のように見えますが、生理的にも心理的にもまだ未成熟です。まだ骨の成長が終わってない場合、骨の先端近くの成長域ではまだ組織が密ではないため、靱帯が分裂するような外傷に対してもろいものです。したがって青年期の終わりは、骨の成長の終わりが目安となるでしょう。
     この時期に行うトレーニングの効果は、その他の年代に比べて大変大きい。たとえば持久性のトレーニングをすれば酸素摂取量は33パーセント以上増加し、心臓のサイズも大きくなります。筋力トレーニングをうまく効果的に行えば、将来必要とされる筋力、パワーの基礎をつくることもできます。
     ただし前にも述べたように、最優先するのは枝術の完成化です。この年齢で技術が完成していないと、遅すぎるとさえ言っていい。プロフェッショナルになってからの監督は、技術的なことについて指導する時間はありません。監督の仕事は試合に勝つことであり、選手はそのための選択肢と考えるものです。試合に勝つためには、監督によっては疲労困憊するようなトレーニングを行うなど、あらゆる手段を駆使していきます。それだけにプロフェッショナルの前の段階での技術と基礎体力が重要になってくるのです。私が見る限り、日本の選手の問題はこの段階にあるように思えます。
     しかし急速な成長の起こるこの時期に過度なトレーニングを行うと、栄養を奪われ、正しく成長すべき筋や内蔵を壊しかねません。体力は成熟に応じて計画的に、徐々に上げていかなければなりません」

 ボールコントロール

「14〜 15歳より前に、ボールの感覚を身につけなければなりません。ボールコントロールに限れば、15歳でもプロフェッショナルと同じクォリティのテクニックを身につけることは可能です。プロフェッショナルのレベルではまた別のクォリティ、スピードやパワー、戦術眼などの要素が要求されるのです。したがって10〜15歳のうちに、ボールコントロールの基本技術はしっかりトレーニングすべきでしょう」

 身体のコーディネーション

「12歳までに身につけなければなりません。ボールを蹴り始めたら、ボールの上をジャンプしたり、ジグザグに走ったり、杭をすり抜けたり、リズミカルなトレーニングをする必要があります」

スピード

「90分で10キロを走るサッカー選手には長距離走者的なイメージがあるかもしれませんが、持久力と同様、いやそれ以上に大切なのはむしろスピードです。しかもそれは直線を走るスピードではなく、ボールコントロールのスピード、反転のスピード、思考のスピードなどです。プラティニ、ジーコ、ベッケンバウアーはそれほど足の速い選手ではなかったが、テクニックと判断力そしてスピードと正確性がありました」

 戦術に関する教育

「さまざまな考え方がありますが、CTNFでは全体として決まった戦術を教えてはいません。もちろん個人戦術は教えます。"そこに人がいるからそっちには行くな"と言うことは、すでに戦術を教えていることになります。試合で起こる場面を想定して、そのときの対処の仕方を身につけられるようなトレーニングをするということです。このように基本的な個人戦術、ポジショニングを習得すれば、プロフェッショナルになってから、あらゆる監督の戦術に対応できるようになります。個人戦術を理解している選手が11人いれば、11対11になったとき、自然に全体の戦術となる。これを教えることは、監督のインテリジェンスにかかってきます。大切なのは、プロフェッショナルの年齢に達したとき、良いパフオーマンスを達成できることを目的とすることです」

レベルの高い試合を見る

「非常に大切なことです。試合を見れなければビデオでもいい。トレーニングの前にテーマを持ってビデオを見るのもいいことです。このとき重要なのは監督の鋭明です。選手がビデオのプレーを見て"好きだ"と思えば、そのプレーを理解したことになります。それは当然練習でもやってみたいプレーということになる。監督の技術レベルが高く選手にデモンストレーションして見せるのがベストですが、それができない場合にはビデオが役立ちます」

グラウンド外での教育

フランスは16歳までが義務教育です。でもサッカー選手は15歳ですでに大人になっていたほうが、つまり独立心と責任感を持っていたほうが有利です。 これは時間のかかる仕事で、朝の"ボン・ジュール"から始まります。つまり24時間すべてが紋育なのです」

 栄養

「バランスのとれた食事が大切です.トレーニングをしている子供はしていない子供に比べ量的にも多くとる必要があります。日本人は米と魚をよく食べると聞きましたが、それはとても良いことです。チーズや牛乳など乳製品も意識して多く取りましょう。18歳までにしっかりとした骨格をつくるため、カルシウムとタンパク質を十分とるべきです」

心理学的な教育

「むしろ監督にとって重要なことです。重要な統合でモチベーションを落とさず、なおかつ緊張しすぎないようにしなければなりません。しかし、しっかりとした下準備があれば自ずと自信も生まれ、自然な状態でいることができるものです」

   選手の将来牲の予想

「CTNF に来て15日目には明らかにこの選手は成功するだろうと予想できる場合もあれば、それほどでもないと思っていた選手が大成功を収める場合もあり、我々もよく間違えることがあります。たとえばアンリはここに来てすぐにすごい選手になると思いましたが、アネルカに関しては、それなりの質を見せていたものの、将来への確信を持てたわけではなかった。こればかりはどうなるか分かりません」

成功する素質

「毎日の反復練習を、モチベーションを落とさずに、まじめに取り組み継続できる選手です。それなりの素質を持ち、統合に勝ちたいと思っていれば、あとはそのために必要なことを継続できれば良い選手と言えるでしょう」

ポジション別のトレーニング

「ポジション別のトレーニングは15、16戴から始めるべきでしょう。それまでは一般的なトレーニングをすべきです。最近CTNFで17歳の卒業まであと3カ月という選手が、フオワードからサイドパックに転向し、サイドバックとしてマルセイユと契約したという例があります」

教育システム

「日本とフランス、アジアとヨーロッパでは、教育についての考え方や方法が違うので簡単には言えませんが、日本でも次のようなシステムをつくることは可能なのではないでしょうか。サッカーのセンターをつくり、合宿はしないまでも選手は毎日そこに通う。センターから学校に行き、授業が終われば再びセンターに集まってトレーニングを行い、その後に帰宅する…、というものです。CTNFがとっているスタイルは、トレーニング面で有効なのはもちろんですが、子供の独立心を養うという面でも役立っているからです」

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