パーフェクトトレーニング

1・サイクルに分けてトレーニングの内容を変える重要性


 次のゲームに勝つためのノウハウなどというと、いかにも安直な、その場限りの方法論のように聞こえてしまうかもしれない。
試合で自分の能力以上の力を発揮する、という言い方も誤解を招きやすい。そこにはどうしても「頑張れば何とかなる」式のあまり意味のない精神論の匂いか感じられるからだ。

 だが日曜日の試合に絶好調でのぞみ、自分の持っている能力以上のパフオーマンスを引き出すことは十分に可能である。そのためのトレーニングが、ヨーロッパや南米のサッカー界ではごく当たり前に行われている。
 それは運動生理学などの学問の分野が、スポーツの現場に持ち込まれて生まれた成果のなかでも、イロハのイのようなものだと言っていい。



 現代サッカーではどんなにすばらしい選手を掻き集めても、適切なトレーニング計画なしに強いチームを作ることは絶対にできない。
 若いころから正しいトレーニングを計画的に積むことが大切なのである。


ピーキングを試合にあわせたマイクロサイクルのトレーニング内容例           
1・80年代ブラジルのトレーニング
月曜日
積極的休養
軽い運動の後、お風呂に入つてよくマツサージをしたり、ストレッチ、睡眠をたっぷりとる。スポーツ選手のために栄養価の高いものを適量選んで食べる。
火曜日
持久力トレーニング
(有酸素能力の
          強化、維持
4km一6kmを心拍数150拍以上/分で走る。
水曜日
紅白戦
2タツチまで、3タツチまで等、制限をつけてやってみるのもよい。目的を持ってプレーする。
木曜日
瞬発的トレニング
(無酸素能力の
     強化、維持
ダッシュ、ジャンプ等、またそれらをふんだんに使ったサーキットトレーニングなど(あまりやりすきて疲れないようにするのコツ)、ボールを使いながらするとより効果的。
金曜日
紅白戦
フリーキック等
セットプレー
できれぱ相手チームの情報を手に入れて、シュミレーションしながらトレーニング。日曜日を十分意識して 戦術的なトレーニング、フリキック、ペナルティーキックを蹴る人はその練習。
土曜日
サッカーバレー
または、
非常に軽いランニング
疲労回復とリラクゼーションが目的、大切なことは笑うこと、ジョークを飛ぱすこと。トレーニングは30分以内に切りげること。
日曜日 試合 全ては試合のために準備してきた。必勝しかない。


2・2000年のフランス2部リーグASカンヌの最新のトレーニング
(
ASカンヌ
 ジダン、パトリック・ビエラなどを育てたクラブ。育成で有名)
月曜日 積極的休養 20分間非常に軽く走り、20〜30分かけてストレッチ
軽い運動の後、お風呂に入つてよくマツサージをしたり、ストレッチ、睡眠をたっぷりとる。スポーツ選手のために栄養価の高いものを適量選んで食べる。軽いランニングは体にたまった老廃物を速く除去する働きがある。
火曜日 休養 チームでの合同トレーニングはオフ各自疲労回復のためのテクニックを行う
水曜日 筋力トレーニング
(無酸素能力維持、強化)
午前
ウエートトレーニング、サッカーの動きに必要なトレーニングを心がける。
俊敏性、パワー、調整力を損なわないような方法を採る。(これについては別の機会に詳しく説明する。)
ウエートトレーニングの後すぐにグランドにでて、短いダッシュや、低いハードルを跳び越えたり、コーンをジグザクにすり抜けた後にダッシュするようなトレーニングを入れる。ボールも蹴れれば蹴る。
午後
パスゲーム、ゴールキーパー付きの普通のゴールを使った、ミニゲーム。
十分に各自ダッシュができるように、コートの大きさと、人数をコントロールし、非常に激しく動く。瞬間的な動きを最大限のパワーで行うようにする。
基本的にゴールからゴールまでの間は35mから40mで、常にシュートをねらう。そのことによって攻守とも、常にハイパワーで動く必要に迫られる。ハイパワーがこのトレーニングのフィジカル面でのねらい。
木曜日 瞬発的トレーニング
(無酸素能力維持、強化)
水曜の午後と大体同じだが、ミニゲームのルールなどを少し変える。
選手が自主的にフルパワーで動くことを前提としている。選手の疲労状態が軽い場合または、精神的に引き締めが必要な場合は、20m×15mのコートで、1対1,2対2、3対3などをインターバルを取って激しく行う。(このトレーニングに関しては後で詳しく説明する。)
金曜日 瞬発的トレーニング
(無酸素能力維持、強化)
ミニゲーム
5人から7人のチームを3チーム作り、買ったチームが残るスタイルのみにゲーム。
5分以内に勝負を決めるというような時間制限を設ける。シーズンのどの位置にいるか、疲労状態にもよるがトレーニングの時間は1時間以内のことも多い。
サッカーテニスだけで終わることもある。
しかし一つ一つのプレーは限りなくスピーディーにパワフルに行う。
今のフランスリーグはスケジュールもハード、試合も非常にハードなので、紅白戦も毎週はやらない。プレーごとに常に100%以上のパワーを発揮する現代サッカーではその方がよいと思われる。
土曜日 目を覚ます。覚醒 ウォーミングアップ10分
ストレッチ10分
5メートルダッシュ、10メートルダッシュ
杭をすり抜けてダッシュなどトータル10分ほど
コーナーキック左右3,4本づつ
フリーキック右、左、中央それぞれ3本づつ
フリートレーニングの時間を10分
日曜日 試合

・土曜と金曜をのぞいて、一回のトレーニングは1時間半前後である
・これらの表は週一回日曜日に試合があると仮定したメニューで、それ以上に試合が組まれる場合は全く別のメニューになる。またシーズン中どの位置にあるかによっても内容が違うので、これは大まかな目安と考えてほしい。

3・サイクルトレーニングの具体的内容、に戻る



 1984年、私は初めて海外に住むことになった。目的はプロサッカ一選手になること。将来Jリーグができるなどとは誰も思ってもいない時代のことだ。
 「自分はこの旅にすべてをかける、だがらどんな苦しい練習にも耐えてみせる」。スペインへ向かう飛行機の中でも、頭の中はサッカ一のことで一杯だった。
 参加したのはスペイン北部にあるパラカルドという町の、FCバラカルドというチーム。2部Bリーグに属して同じ地域ではアスレティツク・ビルバオに次いでクラシックなクラプであった。トレーニングは9月のシーズンインに備えて7月から始まった。
 町には丘陵地帯があり、初めてチームに合流した時期のトレーニングは、毎日クロスカントリーをただひたすら走るというものてあった。

 チームメートは皆体力的にも非常に優れていた。私も体力には相当自信があるほうだったが、彼等の中に混じると、最初の1週間こそよかったのだが徐々に疲れてしまい、1力月後には最初の勢いは全くなくなっていた。そのころの私は、ただがむしゃらに「トレーニングをすればするだけ強くなる」一生懸命やれば目的はかなう」という教育を日本で受けてきた。コーチにゆっくり走れと言われても、なるべく速く走ろうとしたり、わざと周囲の選手より遅れてスタートし、ゴールまでに追いつくなどということを自分に課し、それでトレーニング、効果が上がるものと勘違いしていた。
 また、トレーナーが各トレーニングの合間に選手の心拍数を計っていたが、その意味も理解できないでいた。単にそれは選手の"強さ"をみているのだと思い、心拍数をわざと少なめに答えたりしたものだ。もし私がもっと若いときからトレーニングと心拍数の関係についての教育を受けていたら、どれほど無駄な時間と苦痛、オーパートレー二ングによる怪我の可能性を減らせたことだろう。ところがトレーニングに参加して時間がたつにつれ、目に見えて体力が低下していくのがわかった。疲労には勝てないことに気がつくことにそれから半年ほど要した。また、コーチがきついトレーニングの後に楽な卜レーニングをして、バランスをとっているのだと理解するまでにはさらに時間を要した。つまりトレーニングだけで体力があがるのてはなく、目的に合った強度と時間でトレーニングをし、トレーニングをしたら身体を休ませるということの繰り返しにより初めてトレーニング効果が上がるということに、半年以上かかって気がついたというわけだ。ちなみにトレーニングの強度や質は心拍数で計ることができる目的に合った強度(心拍数)で、トレーニングをすることにより初めてそれは効果的なものになるのだ。「闇雲に頑張り過ぎないほうが調子がいい」というのが当時の実感だった。

 シーズンが始まってからのトレーニングメニューは、日曜日の試合を目標に組み立てられる。月躍日から土躍日まで、休みを含めてコーチに指示されたメニューをこなしていくと、なぜが日躍日は異常なほど調子がいいのである。身本がピクピクしてじっとしていることができないような感覚、といったらいいだろうか。今思えばそれが1週間の頂点にある状態、すなわちピーキングだったのだ。この絶好調の状態を少し専門的に説明すると、まず体力的には、体力を構成する様々な要素の適合のピークであり、プレーヤーにとってはベストパフォーマンスを引き出せる状態といっていい。精神的にはボジティプて自信に満ちている状態にあることを差す。重要なのはピークはあくまでも一時的な状態であり、けっして何日も続くような代物ではないこと。そして必要なトレーニングを行うことにより、狙った日にピークを持ってくることができるということだ。このビーキングはあらゆる競技に存在する。分かりやすいのは陸上競技で、トップアスリートならばオリンピックや世界選手権といった大きな大会にピークを合わせるのは当然のことである。サツカ一の場合は、試合が毎週土躍日あるいは日曜日に一定の間隔をおいて定期的に行われること。そしてそのサイクルが年間のうちかなりの期間続くことだろう。
 実際スペインで経験したトレーニング内容も、まずはプレシーズンとシーズンに大別され、それぞれもプレシーズン前期とシーズンイン直前、シーズン序盤・中盤・終盤と大きく異なっていた。それはまぎれもなく試合に勝つという目的のために作られたメニューであった。


 それでは具体的にこうしたメニューはどのように作られるべきなのか。もっとも大切なポイントは、疲労とその回復にある。簡単な例をあげると、長距離を走るようなエネルギーを長時問にわたり大量に消費する運動は回複にも時間がかかる。これに対してダッシュのように爆発的にエネルギーは使うものの、その総量はさほどでもない運動では、回復にもそれほど時間ががからない。両方のトレーニングが必要な競技、たとえばサッカーの場合は、回複までの時間を考えてメニューを作る必要がある。

 1過間のトレーニングをひとつのサイクルとして考えてみよう。日曜日が試合で月曜日が休日とすると、長距離走は週の前半、だとえば火曜日に、ダッシュは週の後半、たとえぱ木曜日にとりいれる。すると少なくとも肉体的には、日曜日に十分回複した状熊になっていると予想することができる(もちろん回復までの時間には個人差があることも忘れてはいけない)。さらに言えばこの「回復」は、ただ単に元の状態に戻るということではない。トレーニングをする以前よりもほんの少しだがレベルの高い状態を差す。トレーニング選論などではこれを超回復下注1)と言うことがある。もし試合のある日曜日がこの超回復の時期と一致すれば・・・結果は自ずとついてくるというものだ.

 週をひとつのサイクルと見立てたが、これはあくまで最小の単位である。サイクルは月単位、シーズン単位、年単位、あるいはW杯(五輸)を基準とした単位など様々なものが考えられる。そしてそれぞれの単位のトレーニング効果をいくつかの期間に分割して内容を変えて行うことで最大のものにすることを、サイクル・トレーニング下注2という。
紹介した1週間のトレーニングメニユーは、マイクロサイクルのサイクル・トレーニングのひとつの例だと言うことができる。フランス、イタリア、プラジル、どの国でも同じように、トレーニングや運動生理学に基づいたトレー二ング、計画が立てられている。

 現代サッカーではどんなにすばらしい選手を掻き集めても、適切なトレーニング計画なしに強いチームを作ることは絶対にできない。そのことを選手が認識することも重要だ。今、日本で必要とされているのは、できるだけ早い年齢のうちから、その年齢にあったトレーニングを計画的に行うことだろう。ひとりの優秀なプレヤーを作るには、本人の才能と同時に、若いころから正しいトレーニングを計画的に積むことが大切なのである。


注1: 超回復
体に運動の負荷を与え、その器官や組織の機能を一時的に低下(疲労)させると、その後休息により回複したときの機能はそれ以前のものを上回る。繊細は次号で
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注2 : サイクル・トレー二ング
周期的トレーニングとも呼ばれる一定期問にあげるべきトレーニング効果を、その期間をいくつかに分割し、内容を変えて行うことて飛躍的に伸ばすことができる。
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